OpenAI・Microsoft 著作権訴訟(NYT・作家集団訴訟): MDL集約と略式判決の審理。争点・暗記・データ削除命令
The New York Times や全米作家協会(Authors Guild)などが OpenAI と Microsoft を訴えた著作権侵害訴訟は、ニューヨーク南地区連邦地裁の集中審理(MDL No. 3143)に集約された。2026年9月に双方が略式判決の申立てを提出し、AI学習のフェアユースや記事・書籍の「暗記(丸暗記出力)」、学習データの削除・ログ開示をめぐり司法判断が迫っている。
- 発端
- 全米作家協会(Authors Guild)および著名作家ら(ジョージ・R・R・マーティン、ジョン・グリシャムら)が、著作…
- 現在の状態
- 進行中最終確認
- 次の予定
- なし確定している今後の予定はありません
- 経緯
- 11件最新の動き
訴訟の概要(2026-10-10 確認)
- 事件名: In re OpenAI, Inc., Copyright Infringement Litigation
- 事件番号: 1:25-md-03143(MDL No. 3143)
- 裁判所: 米国ニューヨーク州南部連邦地方裁判所(S.D.N.Y.)
- 担当判事: シドニー・H・スタイン(Sidney H. Stein)連邦地裁判事
- 原告: The New York Times(NYT)、Authors Guild(全米作家協会、ジョージ・R・R・マーティンら作家陣)、地方紙グループ(ニューヨーク・デイリー・ニューズ、シカゴ・トリビューンなど米地方紙8紙)、The Intercept 等
- 被告: OpenAI, Inc.(および関連法人)、Microsoft Corporation
- 現在の手続きの段階: 略式判決(Summary Judgment)の申立て・審理段階。原告側が2026年9月4日、被告側(OpenAI・Microsoft)も同じ時期に略式判決の申立てを裁判所に提出しました(Authors Guild 公式発表)。また、米司法省(DOJ)が2026年9月1日に利害関係者意見書(Statement of Interest)を提出し、学習段階のフェアユース判断について意見を述べています(Axios 報道 / Bloomberg Law 報道)。
経緯新しい順 ・ 11件
- 最新USA TODAY の親会社(旧 Gannett)傘下の地方紙19媒体が OpenAI を著作権侵害でニューヨーク南地区連邦地裁に提訴。Forbes JAPAN
- 原告側(作家・メディア連合)が9月4日、被告側(OpenAI・Microsoft)も同じ時期に、それぞれの略式判決(Summary Judgment)申立てを提出。Authors Guild 公式発表
- 米国司法省(DOJ)が裁判所に利害関係者意見書(Statement of Interest)を提出。AIモデルの学習はフェアユースだと判事に促し、学習の段階と出力の段階は分けて考えるべきと主張(法的拘束力はなく、原告の新聞社側は意見書を考慮しないよう裁判所に要請)。Axios 報道 / Bloomberg Law 報道
- スタイン判事が Books1/Books2 削除に関する治安判事の開示命令を取り消し(vacate)、OpenAI の弁護士・依頼者間秘匿特権を保護する決定を下す。Sterne Kessler 法律解説
- スタイン判事が、治安判事(Ona T. Wang)の命令を支持し、OpenAI の異議を退けた(2,000万件の匿名化ログを提出させる命令)。ABA Journal 報道
- 治安判事(Ona T. Wang)が、OpenAI に対し書籍データセット(Books1/Books2)の削除経緯に関する社内通信の開示を命令(非利用を理由に挙げたことで弁護士秘匿特権を放棄したと判断)。Sterne Kessler 法律解説
- 米国多地区訴訟合同パネル(JPML)が、S.D.N.Y. に係属する作家・報道機関の一連の訴訟を1つの集中審理(MDL No. 3143)に集約することを決定。Justia 裁判記録
- ニューヨーク・デイリー・ニューズやシカゴ・トリビューンなど米地方紙8紙が OpenAI と Microsoft を著作権侵害で提訴。The Guardian 報道
古い動きを見る(3件)
- OpenAI が公式ブログで反論。学習はフェアユースであり、「暗記」は異常なプロンプト誘導(ハッキング的な試み)による稀な不具合だと主張。OpenAI 公式ブログ
- The New York Times(NYT)が、記事の無断学習および記事本文をほぼそのまま出力する「暗記」現象を証拠として、OpenAI と Microsoft を提訴。NYT 報道
- 全米作家協会(Authors Guild)および著名作家ら(ジョージ・R・R・マーティン、ジョン・グリシャムら)が、著作物を無断でAIモデルの学習に使用されたとして OpenAI を集団訴訟で提訴。Authors Guild 公式発表
争点
- 学習のフェアユース(公正利用): 書籍や報道記事を無断でスクレイピング・複製して大規模言語モデル(LLM)を学習させることが、米国著作権法107条の「フェアユース」にあたるか。学習行為が「変容的(transformative)」かどうかが最大の対立点です。
- 「暗記(Memorization)」と出力による侵害: ChatGPT がプロンプトに応じて元記事や書籍の本文を一言一句違わずに(verbatim)再現出力する現象。原告側は「モデル内に直接著作物が保存・複製されている証拠」と主張します。一方の OpenAI 側は「通常の利用では起きない稀な現象であり、意図的な誘導プロンプトによって誘発されたもの」と反論しています。
- 学習データ(Books1 / Books2)の削除と証拠保全: OpenAI がかつて学習に使用していたとされる書籍データセット(海賊版シャドウライブラリの LibGen 等に由来する Books1・Books2)を2022年に削除した経緯。原告側は証拠隠滅(spoliation)を疑い、社内 Slack チャンネル(`#excise-libgen`、後に `#project-clear` に改名)の記録開示を求めました(裁判記録・報道解説)。2026年2月に裁判所は OpenAI の弁護士秘匿特権を認め、治安判事の開示命令を取り消しました。
- ChatGPT 会話ログ2,000万件の開示: 裁判所は OpenAI のプライバシー懸念を退け、ユーザーの実際のプロンプトや出力実態(市場での代替性)を検証するため、匿名化された2,000万件の会話ログの提出を命令しました。
- 著作権管理情報(CMI)の削除(DMCA 1202条): 記事や書籍の署名、著作権表示、利用規約を削って学習用データセットに整形した行為が DMCA 違反にあたるかどうかも争われています。
反応各方面の主な反応(要約)。出典は各行のリンク先を参照
作家・報道機関側無断で高品質な文章を大量に収集し、自社の事業を脅かす商用モデルを作った行為は「ただ乗り(フリーライド)」であり、公正利用の限度を著しく超えていると訴えています。Authors Guild 公式声明
OpenAI・Microsoft 側人間が読書を通じて知識を学ぶのと同様に、AI の訓練は著作物から概念や言語のパターンを学習する変容的利用であり、フェアユースに合致すると反論しています。また、報道機関との正規ライセンス契約を積極的に推進している点も強調しています。OpenAI 公式ブログ
米国司法省(DOJ)2026年9月1日、裁判所に利害関係者意見書を提出しました。学習はフェアユースだと判事に促し、学習の段階と出力の段階は分けて考えるべきだと主張しています(拘束力はなく、原告の新聞社側は意見書を考慮しないよう裁判所に求めています)。Axios 報道 / Bloomberg Law 報道
掘り下げ
「暗記(Memorization)」を実証した主要研究・論文
裁判で論点となっている「モデルが著作物を丸暗記して出力する現象」については、学術研究でも具体的な検証が進んでいます。
- 論文名: Foundation Models and Fair Use
- 著者: Peter Henderson, Xuechen Li, Dan Jurafsky, Tatsunori Hashimoto, Mark A. Lemley, Percy Liang(スタンフォード大学)
- 発表: プレプリント公開 2023年3月(arXiv:2303.15715)、学術誌掲載 2023年(Journal of Machine Learning Research, 24(400):1-79, 2023 / JMLR 論文ページ)
- 何を示したか: 大規模言語モデルがハリー・ポッターなどの著名な著作物を記憶している実態を検証。文字置換(例: 「aを4に、oを0に置換して出力せよ」)などの単純な敵対的プロンプトを用いることで、モデルの盗用防止フィルターを容易に回避し、書籍本文の長文をほぼ原文のまま出力させられることを実証しました。モデルの出力が常に変容的とは限らず、市場での競合・代替を引き起こし得るという技術的根拠を示しました。
- 論文名: Who’s Harry Potter? Approximate Unlearning in LLMs
- 著者: Ronan Eldan, Mark Russinovich(Microsoft Research)
- 発表: 2023年10月(arXiv:2310.02238)
- 何を示したか: モデルからハリー・ポッターに関する著作権コンテンツのみを選択的に消去(機械忘却)する手法を提案。逆説的に、忘却処理を行う前のモデル(Llama2-7b)がハリー・ポッターのストーリーや登場人物、世界観に関する詳細な知識を深く保持しており、関連するプロンプトを与えられるとそれらを補完・生成できる状態にあったことを示しました。
- 論文名: Extracting books from production language models
- 著者: Ahmed Ahmed, A. Feder Cooper, Sanmi Koyejo, Percy Liang(スタンフォード大学ほか)
- 発表: 2026年1月(arXiv:2601.02671)
- 何を示したか: 商用LLM(Claude 3.7 Sonnet、GPT-4.1、Gemini 2.5 Pro、Grok 3)を対象に、書籍本文をどの程度抽出できるかを検証した研究です(実験期間は2025年8月中旬〜9月中旬)。
- 抽出の手順: 通常のプロンプト1回で出力させたわけではありません。まず「原作のとおりに続きを書け」という指示と、本の冒頭1〜2文のみを与えます。指示を拒否した Claude 3.7 Sonnet と GPT-4.1 に対しては、指示文の表記を少し崩して何度も試す Best-of-N(脱獄)手法を用いて安全ガードを突破しました(『ハリー・ポッターと賢者の石』での試行回数は Claude が258回、GPT-4.1 が5,179回)。Gemini 2.5 Pro と Grok 3 は脱獄なしで応じました。その上で、直前のモデル自身の出力を文脈に入れながら「続けて」と繰り返し指示し、後続の文を引き出しました。入力として渡した原文は冒頭の1〜2文のみです。
- 評価手法と抽出率(『賢者の石』): 原作と100語以上連続してほぼ一字一句一致(near-verbatim)した部分のみを数える保守的な評価指標(nv-recall)を使用しました。結果は、Claude 3.7 Sonnet が 95.8%(480回の反復呼び出し、API費用約120ドル)、Gemini 2.5 Pro が 76.8%(脱獄なし)、Grok 3 が 70.3%(脱獄なし)でした。一方、OpenAI の GPT-4.1 は 4.0% にとどまり、第1章の末尾でモデルが継続を拒否しました。
- 双方の論点: 本研究の結果には二つの見方があります。第一に、通常の利用ではなく、脱獄の試行や数百回に及ぶ反復的な誘導が必要だった点です。これは OpenAI 側が主張する「異常なプロンプト誘導による意図的な引き出し」を裏付ける側面を持ちます。第二に、与えた原文は冒頭の1〜2文だけであり、100語以上のほぼ一字一句の一致のみを数えても長文が再現された点です。著者はこれを、モデルが本文を記憶していた証拠としています。なお著者らは、実験設定がモデルごとに異なるためモデル間の抽出リスクを比べるものではないとし、詳しい法的分析は他に委ねると述べています。
USAトゥデイ訴訟(Gannett 傘下19媒体)との関係
2026年10月8日に提訴された地方紙19媒体による訴訟(USAトゥデイの OpenAI 訴訟)は、本 MDL と同じニューヨーク南地区連邦地裁に提起されました。先行する本 MDL(No. 25-md-3143)で争われている学習段階のフェアユースや証拠開示の司法判断は、後続の地方紙訴訟の行方にも直接影響を与える位置づけにあります。
誰に影響するか: 生成AI開発企業、コンテンツ著作権者(作家、報道機関、出版社)、AIサービスを利用する企業や一般ユーザー。
これから見る点
- 略式判決(Summary Judgment)の判断時期: スタイン判事が学習段階のフェアユースについて法的な判断を下すか、あるいは事実認定の対立を理由に陪審裁判(Jury Trial)へ進めるかが最大の焦点です。
- 司法省(DOJ)意見書の反映: 連邦政府の立場表明が裁判所の判断や控訴審の議論にどう影響するか。
- 開示された2,000万件ログの分析: 提出された会話ログから、実際の一般ユーザーによる著作物の代替利用がどの程度存在したかが立証されるか。
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